MAGAZINE
Vol.1
“サスティナブル縫製工場”
の真意と可能性
「“サスティナブル縫製工場”が モノづくり文化にイノベーションをおこす」を新たな経営理念に掲げ、変革するナカノアパレル。経営理念を変更してまでサスティナブル縫製工場を謳う理由や、裏側にある考え方をa-base consulting代表新家彰さん、法政大学経営大学大学院教授丹下英明さんをお招きし対談を実施。サスティナブルの本質や、アパレル企業が持つ問題点等幅広いテーマでお届けします。
プロフィール
中野一憲 副社長
新家さんの論文との出会いから、サスティナブルに深く関心を抱く。製造業においてサスティナブルで様々なことが変革できるのではないかと希望を見出している。
中野彰浩 専務 / 営業担当
副社長の実の弟にあたる。半年間経営理念を変更するにあたり、少しづつではあるが会社の変化を実感している。
中野浩 常務 / 総務責任者
社内の内製化も担当。サスティナブルで、社員のバックヤードなどの意識も変えていきたい。
丹下秀明
法政大学経営大学院教授並びに中小企業診断士。経営の分野に特化。新家さんは卒業生にあたる。
新家彰
A-base consulting代表 中小企業診断士。
オンワード樫山に30年在籍。ナカノアパレルのコンサルティングを務める。またその他多数の中小企業へコンサルティングを行なっている。
TOPIC 1.
アパレル業界のサスティナブル意識の低さ。
ー 今回、経営理念を変えてまでサスティナブルへの意識が強いですが、皆様は製造業、アパレル業界全体に関してはどのようにお考えですか?個人的にはアパレル業界は「サスティナブル」という言葉が一人歩きしているように感じます。本質は誰も知らないといいますか、アパレルにおいては商売としてサスティナブルは”売れる単語”として扱われているような感じも受けます。
丹下秀明(以下丹下):
私はアパレル業界を長年研究しているのですが、アパレル企業さんで本気で取り組んでいるところは非常に少ないと感じています。本当にこれは問題だと感じていますし、他の産業、他の国よりも相当遅れている。非常に危機感を感じています。
中野彰浩(以下彰浩):
何かしなければいけないの意識はあったのですが、ハッキリ言ってそこまで意識は回っていなかったと言うのが本音です。ただ遅れていると言われるアパレル業界の中でも、生地屋さんは意識が早かったように感じます。生地をエコなものにするとか、染めを環境になるべく負担のかからないものにするとかですね。
丹下:
彰浩さんが今おっしゃったように意識が回っていないが本音だと思うんですよ。要するに余裕がない。特に中小企業は生き延びるのが精一杯。目に見えづらい利益に見えない部分は中々手が回らないんだと思います。
中野一憲(以下一憲):
昔はエコロジーとか言っていましたよね。一部の方は本気でやっていたと思います。でもそれって煙たがられる部分もあるのではないかと思っています。社員にも取引先にも少し手間をとらせてしまう部分があるので、中々やることにメリットが見出せなかった。しかもやるなら「ブランド全部でやらなきゃ」とかなるので、手間がかかる部分であったと思いますね。
新家彰(以下新家):
これ、少しサスティナブルの闇と言いますか、上場企業はSDGsやサスティナブルをHPで謳っているところが多いんです。でも未上場は基本謳っていない。要するに、ビジネスとして上場するには、「サスティナブルとか謳った方がいいよね」という側面で掲載しているところもあるのではないかと思うんです。だから”重要性には気付いてきているけれど、まだまだ必要性までは感じていない”という感覚なんだと思います。アパレル製品は日常品なのに食品と違って、無くならないですよね。要するに耐用年数が長いんです。贅沢をしない限り、アパレル製品は回転しないんです。持ちがいい。その結果、トレンドなどを内側から作り出し、消費を促してきた。大型ショッピングモールなどが代表的で、とにかく作れ作れと生産することで、売り上げを上げてきました。その方が製品が販売されるので、小売にとって都合がよかったんです。でも結局は、食べ物じゃないから、残っていってしまうんです。結果として、在庫が莫大になってしまった。これが今の現実なので、サスティナブルとは程遠い業界だと言わざるをえないですね。
中野一憲(以下一憲):
当社はアパレルの中でも”縫製製造業”なのでそこに関して言いますけど、縫製はまだロボットではできないんですよ。より複雑で精密な車はロボットが生産できるのに、ですよ。要は生産するロボットを開発するほど、旨味がある産業ではないということです。ハッキリ言って取り残されている産業になってしまっていると思うんです。だから非常に危機感がある。そしてロボットでは製品が作れないので、コストが高い。結果、少しでもコストを下げたいとなると、賃金の安い発展途上国に行きますよね。
新家:
アパレルは営業利益率が低い業界と言われています。ユニクロなんかはまだいい方だとは思いますが、営業利益率は10%もほど遠いような状態で、みなさんが言っていたように余裕のない業界になってしまっています。そこが悪い連鎖がつながっているのが現状だと思います。ただ単に発展途上国に持ち込むことでコスト低減化をするのではなく、日本のアパレル産業における製造構造を改造してコスト合理化を目指すことは、まだまだ余地があることではないかと思っています。
丹下:
確かにおっしゃる通りかと思います。でもこの悪い連鎖を断ち切らない限りは未来は見えてこないかなとも思ってしまいます。ナカノアパレルさんが経営理念を変更してまでサスティナブルに真剣に、本気で取り組むことは非常に意味のあることだと私は感じています。
TOPIC 2.
なぜナカノアパレルは経営理念を変更してまで、サスティナブルに舵を切るのか?
ー 皆さんかなり危機感を持ってアパレル業界をみていることがわかりました。確か意識しようにも余裕がない状態だなとは非常に感じます。そこでなんですが、なぜナカノアパレルはこのタイミングで経営理念を変更してまで、サスティナブルへと舵を切ることになったのでしょうか?
一憲:
まず変更するまでの経緯としてお話ししますと、新家さんにサスティナブルを本当に意識して実行して行くのならば、経営理念から変更しなければ会社には根付かないと言った趣旨の話をいただきました。そこでふと思ったんです。「当社の経営理念ってなんだ?」と。全く情けない話なのですが、何うちの理念って?となったんです。そうだったよね?
彰浩:
そうそう、働いているのに正直わからなかった…
一憲:
要するに、経営理念がない状態で走ってきていたんです。
新家:
ただそう言った中小企業がほとんどなので、ナカノアパレルさんが例外的にって訳では決してないと思います。企業理念を意識せず、とにかく走ってきているところが多いのが実態だと思います。
一憲:
なので、経営理念は誰も意識していない状態でした。でもそれでは迷った時に立ち返る場所がないのと同じことになってしまう。そう考えた時に初めて経営理念は重いものなんだって気付いたんです。経営理念があるから、スタッフ皆が同じ意識を持って進んでいける。それであれば変えようと。”また時代に応じて変えていいものだとも教わりました。その時々の進行方向を指し示すために、経営理念を変える。ここまでの考えに至ったのは、新家さんの論文、お話を伺ったからです。
新家:
まず私は経営理念を作り直すにあたって「ナカノアパレルさんはどういう未来を作りたい?」という部分からお話しをさせていただきました。どんな未来を描きたいがなければ、方向を指し示す経営理念は作り出せません。ここが根幹であり会社としては重要なものであると思っています。
一憲:
経営理念はあくまでキーワード。この考え、明るい未来の方向性を社内に根付かせないといけない。なので「“サスティナブル縫製工場”が モノづくり文化にイノベーションをおこす」というフレーズは環境に良いことだけをやりますよということではない。サスティナブルの発想であれば、無駄な作業時間を削ることも立派なサスティナブル。様々な無駄が削減されることで、残業も少なくなるだけでなく面白い発想を考える時間も生まれる。それは経営における重要な部分です。時間を生み出すことは単に残業が減るというものだけではなく、業績も良く良くなれば、スタッフのみんなに還元できる。
新家:
中小企業と大企業が違うことは、芯から経営理念を浸透させれることにあると思っています。そして私が思っていたよりもはるかにナカノアパレルさんには柔軟性がありました。とても柔らかくて、方針を変えていける。経営理念の考え方を柔軟に把握していて、素晴らしいなと感じています。これからPR含め、様々な取り組みを行なっていく中で、より社内に浸透させ、世の中に良い影響を与えられるような企業になることと思っています。
ー 私も経営理念を変更してまで、サスティナブルを掲げるということを聞いて正直どういう経緯があったものだろうと知りたかった部分でもありました。確かに経営理念はパッと言ってくださいと言われてもわからないものだと思います。でも皆が把握していれば意思統一ができるな、ということに関しても確かになと思って聞いていました。ではまだ掲げ始めて、浸透させていく段階だとは思いますが、現状社員さんの意識やサスティナブルに関する認識ってどうでしょうか?
一憲:
正直意識などは社員によってバラバラです。その中でも東京本社と山形工場では意識の差も大きいです。山形工場は全然浸透していないのが現状で、80%はサスティナブルという言葉も知らないという状態です。
中国工場も「SDGsも何それ?」という状態なのが現状です。
彰浩:
本当現状はそんな感じです。ただここまで経営理念を重視していなかったから、当社には理念の武器がなかった。でも今回の変更を経て新たな理念の武器を手に入れたということだと思っています。だからここをスタートとして、いくらでも変化できる。今は少しづつですが変化していっている流れを感じています。皆と同じ方向性を向いて頑張って行きたいですね。
一憲:
いいスタートは切れたと思っていますが、サスティナブルをビジネスにどう活かしていくのかが今後の課題ではありますね。会社ではなく、学校で取り組むとか良くあるじゃないですか。山形の大学とも連携したりしているのですが、学生の視点てどうですか?
中野浩(以下浩):
まだ取り組めているわけではないんですが、山形大学のサイト内で掲げているYUSDGsの中では、色々な研究をSDGsと関連付けてやっている形です。そこに我々のようなパートナー企業が「一緒にこういうことを取り組みましょう」という形でサポートしています。やはり大学生なので、ビジネスの側面と言いますか、儲けとかそういう観点はありませんね。ただ社会人の方より、サスティナブル=環境 みたいな感覚はなくて、SDGsの本質は捉えているのかなとは感じてます。
TOPIC 3.
縫製工場がアパレル業界にイノベーションを起こせるかもしれない。
ー最後に大きな話になりますが、ナカノアパレルがサスティナブル縫製工場宣言をして、話にも挙がった苦境にあるアパレル業界をどのように活性化させていきたいなど、展望はありますでしょうか?
新家:
国内の縫製産業ではナカノアパレルは大きい企業だと思っています。皆さんは自分たちだけでなく、苦境にあるこの業界をどう良くしたいとかありますでしょうか?
彰浩:
現状、サスティナブル縫製工場は差別化の手段にもなり得るとも考えています。その点で自分たちから宣言し、発信することに意味があると思っています。
一憲:
自分たちだけでは微力なので、業界全体に影響を及ぼすのは無理じゃないかなぁというのが今の感覚です。でも同時に社内から意識が変わって良くなれば、本当にモノづくりイノベーションを起こせるかもしれないなとも思っています。そうすれば自分たちをお手本にしていただいて、商品の作り方やあり方なんかが少しづつ変わってくるかもしれない。例えばアパレルでは事業を分断して、川上・川下と言いますが、そんなことがなくなったり、動きが出てくるかもしれない。
新家:
アパレルは第2位の環境垂れ流し産業なんですよ。だからアパレル業界で働いていて、正直肩身が狭かった。自分はこのサスティナブルをきっかけにして本当に業界を良くしたいと本気で考えています。
一憲:
正直我々は生産する側なので、消費者が自然に意識が変われば変わらざるを得ないと思っています。ただまだ消費者も意識が変わっていないのが現状ではないでしょうか。ただ変化は確実に始まっていると思いますし、この変化を実感するまで何年かかるかわかりませんが、「第一人者になりたい」そう思っています。今でも忘れられない自分が中学生の時に母から聞いた言葉がありまして。それが、「農業の人もスーツ着て働く時代がくるかもかよ」この一言なのですが、本当にそんなことも可能な世の中になってきたな、と。本当に縫製工場がイノベーション起こせるかもしれないと。そんな未来も想像できています。
彰浩:
ITとかはかっこいい、スマートなイメージが自分にはありますが、我々みたいなアパレルの中でも「縫製工場」は言葉があまり格好良くない。だからあまりイメージ良くないですよね。これをサスティナブルという言葉を使って意識を改革し、アパレル自体生産からかっこいい産業に見せたいですよね。
一憲:
かっこいいだけでなく、サスティナブルは、様々な関係性を変化させるキッカケかもしれないなと思っています。地域との関係性や、山形大学、法政大学を代表するように大学生との関係、こんな新しい関係も作れる一つの合言葉になってくるのではないか。そして当社としては、判断基準が経営理念に基けるようになれれば良いなと考えています。
- UPDATE :
- Oct.1st.2021